24 November 2020
11月17日、ジョンソン英首相はグリーンリカバリー計画(経済回復と温暖化解決の両立を目指す政策)「The Ten Point Plan for a Green Industrial Revolution」(グリーン産業革命10箇条)」を発表しました。これには、メディアなどで大きく取り上げられたガソリン車・ディーゼル車の新車販売禁止の2030年への前倒しも含まれています。その他、洋上風力、水素、原子力、電気自動車(EV)製造やインフラ、ゼロエミッションバス、電車、船舶、ビルのグリーン化、二酸化炭素貯蔵、自然環境保全、イノベーション促進など、合計10項目の概要をご紹介します。
1. 洋上風力
洋上風力発電量を2030年までには現在の4倍40GWを目指す。
この目標達成に向け、英国政府は差額決済契約(Contract for Difference)オークションで選定される再エネ発電量を倍にする計画。同時に1億6,000万ポンド(約220億円)を投じて、洋上風力製造施設や、洋上風力発電建設増強に向けた港湾設備の整備を支援する。政府補助金を充当することで民間からの投資も促したい考え。
2. 水素
2030年までに低炭素水素製造量5GW達成を目指す。
ガス供給網へ水素を加えることで、家庭の暖房や調理などに使用されるガスのCO2排出量を抑制する。2億4,000万ポンド(約330億円)の政府補助金(Net Zero Hydrogen Fund)を充当し、この分野におけるCO2排出量を7%まで削減することを目指す。2030年までに40億ポンド(約5,500億円)超の民間からの投資を見込む。
英国政府は、二酸化炭素回収・貯蔵技術や洋上風力等の再エネとも組み合わせ、大規模な低炭素水素製造を目指す。
3. 原子力:
3億8,500万ポンド(約531億円)の政府補助金(Advanced Nuclear Fund)を次世代原子力技術へ充当する。2億1,500万ポンド(約300億円)が国産の小規模電子力発電所関連の技術開発へ充当される予定で、これにより工場で製造、現場で組み立てを行うという手法が潜在的に可能になる。マッチングファンド方式により民間資金3億ポンド(約414億円)の調達を目指す。新型モジュール式原子炉(AMR)の研究開発費として1億7,000万ポンド(約235億円)も計上し、2030年代初頭にはデモ機を完成させたい意向。
4. ゼロエミッション車
2030年までに、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売(乗用車及びバン)を停止。10億ポンド(約1,380億円)を投じて車両のEV化、ギガファトリーを含むサプライチェーンの強化を行う。さらに、EV充電インフラの拡充に13億ポンド(約1,800億円)を充当する。
5. 公共交通機関
鉄道網のグリーン化(電化を含む)に数百億ポンド(数兆円)の投資を行う。都市部の公共交通機関へは42億ポンド(約6,000億円)が、ゼロエミッションバスや自転車専用道路、歩道の整備に50億ポンド(約6,900億円)を投じる。
6. 航空機、船舶
英国政府は1,500万ポンド(約20億円)を投じてゼロエミッション航空機の研究開発を行い、2030年には実用化したい考え。さらに 1,500万ポンド(約20億円)の補助金(競争入札形式)を持続可能な航空燃料Sustainable Aviation Fuels (SAF)の製造に充当する。2,000万ポンド(約27億円)を投じて海運のクリーン化を目指す。
7. 一般家庭と公的施設
新たな規制を導入し、2028年までに年間60万台のヒートポンプ導入を目指す。また、10億ポンド(約1,380億円)の補助金を投入してガスヒーターの交換などを進め、一般家庭の省エネとCO2削減を促進する。
8. 二酸化炭素回収・利用・貯蔵 (CCUS)
英国政府は10億ポンド(約1,380億円)をCCUS Infrastructure Fundとして投入し、2020年台半ばまでに英国内2カ所、2030年までに4ヶ所にCCUS施設を設立、年間10Mtに上るCO2の回収を目指す。
9. 自然環境保全
現行の国定公園に加え、新たにNational Parks and Areas of Outstanding Beauty (AONB-国定公園とひときわ優れた自然美のある地域)を設定し、自然環境保全地域を1.5%増加する。これにより2030年までには英国の30%が保全地域となることを目指す。また、52億ポンド(約7,100億円)を投じて洪水対策や海岸線の保護を行う。
10. グリーンファイナンスとイノベーション
英国政府は10億ポンド(約1,380億円)のNet Zero Innovation Fundを立ち上げ、この「The Ten Point Plan」に関連する低炭素技術の実用化を支援する。該当する分野としては、浮体式洋上風力発電、新型モジュール式原子炉(AMR)、電力貯蔵とフレキシビリティー、バイオエネルギー、水素、一般家庭の省エネ・低炭素化、DAC(Direct Air Capture -CO2を大気から直接捕集)、産業用代替燃料、エネルギー関連のAIなどが含まれる。
この英国のグリーンリカバリー計画には、弊社が以前ご報告した欧州のコロナ復興計画と共通の項目が多く含まれています。
欧州では英国を含め再度ロックダウンになっている国や地域が増えていますが、今後は経済復興と温暖化解決の両方を目指す傾向がますます顕著になると考えます。特に英国は、来年開催されるCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)の議長国でもあり、この分野で世界を牽引したい思惑もあるでしょう。今回ご報告した「The Ten Point Plan」が来年以降どのように具体化されていくか、弊社も引き続き注視して参ります。