英国政府、2021年度予算案を発表

16 March 2021

UK chancellor Rishi Sunak before giving his 2021 budget speech.

2021年3月3日、リシ・スナーク英国財務相が2021年度予算案を発表しました。

新型コロナによる初回の全英ロックダウンを実行してから約一年が経過しようとしている中、雇用維持対策や企業・個人事業主への経営支援策が継続される旨も発表されました。

このコラムでは、弊社や弊社のお客様に関連する下記の予算項目を中心に、その概要をまとめました。

 

• コロナ支援策

• 税制

• 投資(経済特区の新設も含む)

• グリーンエコノミー

• テクノロジー

英国立統計局は2月12日、英国の2020年国内総生産 (GDP)は9.9%減と発表しました。一方2020年第四四半期は前年比1.0%のプラス成長となり、2四半期連続の減少・景気後退は回避しました。

 

今回の予算案発表では、コロナからの経済回復と長期的、持続的な成長を達成するための支援策が中心となっています。同時に、国としての借入もGDPの17%に上っていることから、増税についても言及されています。

 

 

新型コロナ支援策

 

政府はこれまで発表してきた様々なコロナ支援策のうち、昨年3月の初回ロックダウン時に発表された雇用維持対策の2021年9月末までの延長も決定されました。人員削減対象となる人の給与の80%を補償することで「一時待機措置」として雇用を維持するこの制度は、当時「世界初の思い切った支援策」と英国政府自身も胸を張りました。

その他、特に小売、外食、エンタテインメント産業分野に対する支援策として、借入や補助金受給がしやすくなる仕組みも設定しています。

 

税制

 

法人税は大企業を対象に現在の19%から2023年には25%へ引き上げられることになりました。コロナ以前には、法人税を段階的に引き下げる方針を発表していた英国ですが、歳出増を受け見直した形です。スナーク財務相は予算案発表の際「法人税増となるとはいえ、引き続きG7の中で最低水準ではある。」と強調しました。

個人の所得税における給与所得控除額は毎年引き上げられてきましたが、2022年度以降は据え置き、事実上の増税となります。

 

投資

 

- 経済特区の新設 - 

英国政府は投資促進や新たな産業振興政策を複数発表していますが、中でもOBMが注目するのは、フリーポート(Freeports)と呼ばれる産業特区の設置です。英国では港と周辺地域を関税、付加価値税(VAT)のないFreeportsをこれまでに7箇所設置していますが、今回新たに下記の8か所が指定され、2021年後半から運用が開始されます

 

• East Midlands Airport

• Felixstowe and Harwich

• Humber region

• Liverpool City Region

• Plymouth

• Solent 

• Thames 

• Teesside

 

これらの経済特区では、税金・関税の引き下げ、インフラ支援などが適用され、国内及び海外からの投資を促進、産業振興を目指します。

 

- 設備投資促進税制 -

今回の予算案では、”super-deduction allowance”と呼ばれる設備投資促進税制も導入されました。2021年から2023年の間新規で行われる設備投資に対して適用され、設備投資額の130%をコストとして計上できるため、設備投資額1ポンドに対して法人税25ペンスを節税できる計算になります。

 

グリーンエコノミー

 

英国政府は昨年11月に通称 Ten Point Planと呼ばれるグリーンリカバリー計画を発表したことは、以前ご紹介しました。
該当記事:英国政府グリーンリカバリー計画を発表  24 November 2020 

 

今回の予算案ではこの流れを引き継ぎ、ローカーボンインフラへの投資を促進する計画を発表しています。この中には、浮体式洋上風力発電関連技術開発支援、洋上風力発電建設に向けた港湾施設への投資と共に、カーボンニュートラルへの転換を支援する目的で設定された150億ポンド(約2兆1,000億円)のグリーンボンドも含まれています。また世界初の試みとして個人投資家向けのグリーンボンド(sovereign green savings bond)の発行も発表されました。

さらに、120億ポンド(約1兆6,800億円)を投じてインフラ銀行(UK Infrastructure Bank)を設立、グリーンインフラへ少なくとも合計400億ポンド(約5兆6,000億円)の投資を行うとしています。

 

水素関連では、480万ポンド(約6億7,000万円)を投じて新たな水素ハブ(Hydrogen hub)を作り、再生可能エネルギーから電解水素(グリーン水素)を製造、大型車両へ供給するプロジェクトを進めるほか、革新的な大規模エネルギー貯蔵プロトタイプ作成プロジェクトに6,800万ポンド(約95億円)を、バイオマスフィードストックプログラムの第一フェーズに400万ポンド(約5億6,000万円)を(いずれも入札方式)を投資するとしています。

 

テクノロジー

 

テクノロジー分野に世界中から有能な人材を獲得できるよう、特にテックスケールアップ企業、科学技術研究組織に対するビザ制度を変更、高技能者のビザ申請の簡素化も進めます。

テック関連への投資促進のため、政府が3億7,500万ポンド(約525億円)の投資ファンドを設立し、政府と投資家が共同で、革新的な技術研究開発を行う企業に対し投資を行うしくみを作ります。革新的な技術開発では特に開発段階の終盤にコストがかかり、特に多方面に汎用性の高い技術開発においてこの段階を下支えするしくみが戦略的に非常に重要であるという政府の考えが背景にあります。

 

 

弊社は、長年蓄積してきた知見と日英間ビジネスの橋渡し経験を活かし、日英両国の政策を詳細に分析するとともに、政策が日英間、または両国発のグローバルビジネスや投資に与える影響をふまえ、両国企業の皆様をご支援しています。

どうぞお気軽にご連絡ください。

 

注釈:

• ポンド・円換算は1ポンド=140円を適用

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