9 August 2021
2021年7月14日、英国政府は運輸部門における脱炭素化計画「Transport Decarbonisation Plan」を発表しました。
主要項目は下記です。
・バイク・大型トラック含むガソリンおよびディーゼル車の新車販売を2040年までに終了
・2040年までにディーゼル列車の運行を全面停止
・地方の運輸インフラへの補助金制度を拡充、地方レベルでの脱炭素化を促進
・2050年までに航空・船舶部門におけるCO2排出削減促進に向け積極投資
英国は自動車のみならず航空、船舶も含めた運輸部門全体の脱炭素化をどのように進めようとしているのか、同時期に発表された他の計画と併せ、英国政府の最新の動向をまとめました。
運輸部門における脱炭素化計画 Transport Decarbonisation Plan では、道路、鉄道、船舶、航空のあらゆる運輸部門における脱炭素化の方向性を示しています。
この計画では、目標数値の設定やコンサルテーション(国民からの意見収集)についての言及が多く、計画実行プロセスについては詳細には触れられていません。
分野ごとの主な政策は次のとおりです。
ディーゼル及びガソリン車
ガソリン、ディーゼル車の新車販売を2030年までに終了する方針はすでに発表済ですが、今回は大型トラックHGV(注1)にも踏み込み、ゼロエミッション車以外の車種の新車発売を2035年まで(26トン以下)または2040年まで(27トン以上)に終了することを提言し、意見収集を行なっています。
英国政府は同時に「新たな車両のCO2 排出規制の枠組みに関するグリーンペーパー(注2)」Green Paper for a New Road Vehicle CO2 Emissions Regulatory Framework を発表しました。
この中では「限りなくゼロエミッションに近い」SZEC (significant zero emission capability)と呼ばれる新基準を設け、2030年~2035年の間に全ての新車がこの基準を満たすことを提言しています。
さらに、新排出規制を満たす手段として、燃費向上に加え、すでに施行されているCO2排出規制とその規制に沿ったゼロエミッション車ZEV (Zero Emission Vehicles) 販売目標の達成を求めています。
一方で、ガソリンエンジンを使用するハイブリッド車の一部は販売終了期限が延長される見込みです。英国ゼロエミッション車局OZEV (The Office for Zero Emission Vehicle) は以前、2030年から2035年までの間、プラグイン車とフルハイブリッド車(注3)のみ新車販売を許可する方針でしたが、今回のグリーンペーパーでは、2035年まではハイブリット乗用車やバンのうち「相当な距離を(注4)」CO2排出なしに走行できるものについては新車販売を許可するとしています。
また2035年以降バイク・スクーターの新車販売も完全にゼロエミッションとすることを提言しています。(前述の意見収集結果を反映)
英国政府としても積極的に前例を示す姿勢です。2022年までに国の政府機関で使用する公用車の4台に1台は超低排出車(注6)に、2027年までに全ての公用車(乗用車およびバン)をゼロエミッション車に、2028年までに国民保険サービス(NHS)で使用される車両の90%を低排出車・超低排出車・ゼロエミッション車のいずれかにすると発表しました。
これらに加え、政府は2035年までに乗用車とバンをゼロエミッションにするための計画実施プランdelivery plan も発表し、政策、投資、インフラ、サプライチェーンなどの目標を定めています。
鉄道
英国の鉄道網の電化はまだ部分的で(注5)、今回の計画で鉄道の脱炭素化に向けたさらなる電化促進、水素やバッテリーを使用した車両の採用も触れ、下記の主要目標を掲げるとともに、車両での貨物運搬から貨物列車による運搬への切り替えを促進するため新たな政策を制定するとしています。
・2050年までに鉄道におけるカーボンニュートラルを達成
・2040年までにディーゼルのみの客車・貨物列車はともに廃止
船舶・海運
船舶・海運分野は、他の分野ほどの言及はないものの、下記のような意向が発表されています。
• ゼロエミッションではない新規内航船販売を段階的に廃止
• 2050年までに英国内航船分野のカーボンニュートラルを達成(前述の意見収集結果を反映)
航空
航空分野は脱炭素化推進が最も難しい分野とされています。航空分野から出る地球温暖化ガスは現在全体のわずか2-3%ですが、2050年には2番目に高い排出分野になると予測されています。脱炭素化計画の中では、現行のスキームに基づきサステナブルな航空燃料の開発を進めるとしています。
今回、航空分野における目標達成期限など時間軸での具体的な言及はなかったものの、Jet Zeroと呼ばれる官民一体でのカーボンニュートラル戦略について触れており、カーボンニュートラル達成に向けた航空機・空港等の効率化の取り組み案をあらためてまとめています。(2040年までに英国国内線でのカーボンニュートラル達成、2040年までに英国内の空港施設での脱炭素達成推進やそれにあたっての意見収集実施については以前発表済です。)
バス
バスは乗用車利用の代替手段として重要視されていますが、英国の路線バスに占めるゼロエミッション車の割合は現在わずか2%です。政府は2035年までにゼロエミッション車ではない26トン未満のバスやトラックの新車販売を終了すると提言。さらにゼロエミッションではない長距離バス車両の販売についても段階的に終了させる意向で、ともに意見収集を行なっています。
また今回の計画においてゼロエミッションバスを新たに4,000台投入し、その運行を支えるインフラ整備も支援するとしています。
弊社では英国や欧州における運輸部門における脱炭素化政策に注目し、この分野における日本企業様と英国・欧州企業様との協業ビジネス機会創出をご支援しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
注1: HGV (Heavy Goods Vehicles) :7トン以上44トン以下のトラック
注2: グリーンペーパー:国会審議用に作成した政策提案書
注3: フルハイブリッド車:ガソリンエンジンと電気モーター両方により駆動されるハイブリッド車。ガソリンエンジンのサポートなく電気モーターのみで短距離を走行することが可能。
注4: 「相当な距離」:具体的な距離については言及されていない。
注5: 英国の鉄道の電化は日本に比べるとかなり遅れており、主要路線が電化されたのも、ここ3年ほどのことだ。
注6: 超低排出車 (ULEV = Ultra Low Emission Vehicles )CO2排出 50g/km未満
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