30 March 2021
昨年はコロナ禍に加えブレグジットもあり、英国にとっては不確定要素の多い一年でしたが、最新の英国テック業界に関する報告書 「Tech Nation Report 2021」では投資家の意欲は衰えていないことがうかがえます。
2020年における英国テック業界へのベンチャーキャピタル(VC)投資額は米国、中国に次ぎ第3位でした。分野別では、フィンテックへの投資が減少した一方で運輸、エネルギー、セキュリティー関連企業が大きく伸び、特にディープテックへの投資は世界第3位の規模まで増加しました。一方で、VC投資額全体に占めるシードレベルの投資の割合が減少し、スタートアップにとってはVCからの資金調達が難しくなっている様子です。詳細をデータと共にご紹介します。
英国テック業界へのVC投資額は過去最高の150億ドルに
2020年の英国テック企業へのVC投資は、ブレグジットやコロナ禍にも関わらず過去最高の150億ドルを記録、前年比7%増となりました。米国、中国に次ぐ第3位の投資額です。
国別テック企業へのVC投資額(2020年)
海外投資家の割合が6割強
レポートでは、英国テック企業への海外投資家からの強い関心も報告されています。2020年の英国テック企業への投資のうち63%は海外投資家によるものでした。2016年以降投資額は伸び続け、全投資に占める割合は2019年に69%とピークに達しました。2020年は前年比6%の減少でしたが、英国国内投資家がそれを補っています。
海外・国内投資家比率
テック企業へのVC投資でロンドンが上位に
テック業界への都市別VC投資ランキングをみると、欧州都市の中ではロンドンがベルリンやパリも大きく上回り突出。世界ランキングでも上海(5位)や杭州(40位)を抑え4位となりました。これら中国の2都市は2015年から2018年にかけてはロンドンを上回る投資を記録していた都市です。
英国における最先端ヘルステック(AI、量子力学、AR/VR、高度計算処理技術などを活用)への2020年の投資額は15億ドルと前年比3倍となりました。最先端気候テック(CO2排出量など気候変動への対処に向けた技術)も8億ドル近い投資となり、前年比20%増となっています。
テック企業へのVC投資額都市別ランキング
(*Cambridgeは米国)
英国ディープテック企業への投資は17%増で世界最大の増加率
英国ディープテック企業へのVC投資は、多くの国が前年を下回る中、英国は前年比17%増と世界最大の増加率となっています。投資額を見ると、英国は中国と米国に次いで3位です。なお、米国の投資額は英国の10倍に達しています。
国・地域別ディープテック企業への投資前年比(2019/2020年)
ディープテック企業とは、バイオ、AI、ロボット、宇宙工学、素材化学など、最先端技術の研究・技術開発、及びその成果の商用転換を行う企業のことで、一般的には大規模な資本投入を必要とします。社会的課題や環境問題の根本的な解決を目指す企業が多いことも特徴です。
シードレベルへの投資が減少
テックセクターへのVC投資の傾向を見ると、シードレベルへの投資が減少し、シリーズBやCレベルの投資が増加していることがわかります。これはスタートアップ企業が投資を受けるのが難しくなっていることを意味しており、弊社の存じ上げている複数のスタートアップ企業からも同様の声を聞いています。コロナ禍で投資家がシードレベルの投資により慎重になっていることに加え、スタートアップ側のビジネスも、受注やプロジェクトの進行に遅れやキャンセルが発生していることが投資家の判断にも影響していると考えています。
英国テック企業へのVC投資―投資ステージ別推移(2016-2020年)
2020年のセクター別のデータにも興味深い変化が見られました。
フィンテック関連への投資が減少した一方、ヘルステックは微増、運輸関連、エネルギー関連、セキュリティー関連は大きく伸び、それぞれ前年比160%、 20%、 66%の増加となっています。
ブレグジットやコロナ禍など不安要因が多かったにも関わらず、英国テック企業へのVC投資額は過去最高を記録。英国が引き続きテックスタートアップ投資において中心的な役割を果たしていることがうかがえます。日本企業の皆様にとっても大きなビジネスチャンスとして、是非ご注目いただきたい点です。
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