欧州新型コロナ復興計画はグリーン経済重視

09 June 2020

5月27日、欧州委員会は新型コロナウイルス復興計画を発表しました。

新型コロナからの復興支援だけでなく、「欧州グリーンディール (EU Green Deal)」やデジタル化にも大きな比重が置かれています。

 

中でも今回5,600億ユーロで設立された「復興・回復ファシリティー」(Recovery and Resilience Facility)は欧州グリーンディールに沿った投資や改革を支援するもので、再生可能エネルギー、水素、スマートモビリティ、循環型経済についても方向性が示されています。

 

欧州委員会はプレスリリースの中で、二酸化炭素削減目標と経済復興の両方を達成できる「Win-winの戦略である」と表現しています。

 

再生可能エネルギーと水素の導入を加速

 

  • 欧州の再生可能エネルギー分野は今回大きな打撃を受けたこともあり、風力・太陽光関連のプロジェクトや水素関連分野への投資の加速に注力する。
  • 欧州投資銀行によるインフラ投資は、洋上風力の送電、インターコネクター、スマート配電網、水素インフラ(運輸・エネルギー貯蔵共)、CO2貯留、ガス供給網における低炭素ガスの利用、貯蔵が対象。
  • 2030年までに大規模な水素エネルギーシステムを導入することも目標としており、クリーンな水素製造を年間100万トンに増やすプログラムに対しても投資を行う。

 

建物の改修

 

  • 病院、学校、公営住宅などの公共施設の改修にもEUの財政支援が行われ、省エネとCO2削減を目指す。今回新設された組織(European Renovation Financing Facility)より支援。
  • 将来的にはこのスキームをオフィスビル、農業施設、個人住宅等へも拡張予定。

 

クリーンな運輸、物流

 

  • 欧州域内や都市部における人と物流の動きの変化を基盤とした対策をとり、低炭素モビリティーを促進
    (英国での取り組みについては「新型コロナで変わる英国のモビリティー」にてご報告した通りです。)
  • クリーンな車の製造・販売やゼロエミッション車開発への投資に対し、インセンティブを付与。
  • EV(電気自動車)の充電インフラ拡張にも補助金を設定、充電スタンド100万カ所を新設、2025年までに公的充電スタンドを200万カ所に。
  • 人と物流が飛行機から鉄道へシフトするにつれて利用増が見込まれる鉄道路線に集中的に投資。現行の列車を改造し、欧州夜行列車サービスを再導入する計画も。
  • 都市部のモビリティーでは、自転車、公共交通機関、個人の移動手段を一括したサービスとして提供するmobility-as-a-service (MaaS)を支援。
  • 郊外エリアにおいては、クリーンなオンデマンド輸送サービスに対し資金充当。

農業と循環型経済

 

  • 持続可能な循環型経済の推進、アグリフードセクターの強化。
  • 高品質な2次的原材料の需要供給を増やすため、リサイクルや廃棄物処理関連の技術に投資。
  • アグリフード分野では、農村部へも超高速ブロードバンドを導入し、精密農業を推進。土壌管理や水質の改善、化学肥料や殺虫剤の使用削減、温室効果ガス排出削減を目標とする。
  • アグロフォレストリー分野では、農地や森を二酸化炭素除去の手段とする新しいビジネスモデルを確立できるよう、財政支援。

 

弊社の見解

 

新型コロナからの復興計画として再生可能エネルギー、水素、スマートモビリティーといった分野に投資やインセンティブの設定がなされ、脱炭素と経済成長の両立を図ろうとしている点は素晴らしいことです。

 

しかしながら、水素エコノミーの実現など、目標と現実の間に大きなギャップがあるものに関しては長期的な取り組みが必要です。このような領域に対しては、企業が新しい技術やビジネスモデルへ投資しやすい様にEUから十分な支援やインセンティブを設定してほしいと感じます。

 

今回の復興計画では特に含まれていないようですが、少なくとも今後1年間の雇用と既存のビジネスを守る施策も非常に重要です。

企業が短期、中期的に体力を維持するための支援にも力を入れ、企業が新たなビジネスに挑戦し続けられる素地を作ることが必要です。

 

 

OBMでは、エネルギー、モビリティー、ヘルス分野を中心に、政策や産業の動向を注視しており、日本企業の皆様からのご相談を常時承っております。

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