立ち止まり、見つめ直したその先に

ーコロナ禍を経て、OBMのこれからー

 

私たちの人生で初めて、世界中がほぼ同時に活動停止するという事態が起こりました。

英国でロックダウンが開始されて以来この4ヶ月、国の政策、企業の対応、教育現場、人々の生活を見つめ32回の連載https://www.obm-gb.com/ja/covid-19/)としてまとめましたが、その過程で大きな学びがありました。

 

コロナ禍後の常識を表現する「ニューノーマル」という言葉にも耳慣れてきましたが、私自身は「ニュー」という感覚はあまりありません。変化は新型コロナ前から始まっていて、人々が立ち止まり、自分の価値観を見つめ直したとき、これらの変化が顕在化したと捉えています。

このコロナ禍をきっかけとした世界の動きから私たちは何を学び、企業として何ができるのか?10周年を迎えた私たちOBMも、世界中のお客様とどのように繋がり貢献できるのか、そのために私たちが大切にしたい価値観とは何かをあらためて見つめなおしました。

 

真の価値の再認識 

 

コロナ禍は人々に「自身にとって一番大切なものは何か」を深く問う機会ともなりました。その中で、本当の幸せは地位やお金といった表面的なものではないという結論に至った人も多かったのです。 

このことは企業にとって何を意味するのでしょうか?

 

今まで「社会的貢献」「環境に優しい」「平等」など耳障りの良いワードを企業方針として掲げつつも、イメージアップ手段と化している企業もありました。今後人々は本質を見極め、行動を伴わないメッセージには厳しい声を発するようになるでしょう。

コロナ禍以前から、B2Cビジネスを中心に製品やサービスを「カスタマイズする」という動きが珍しくありませんでしたが、今後はB2Bにおいてもユーザーの嗜好に合わせた提案がますます主流になっていきます。

 

企業の内部、つまり企業と従業員の関係性においても同様のことが言えるでしょう。特にテレワークで家族との時間が増え自己の価値観と向き合った時、自分の価値観は企業の価値観と合致するか、その製品やサービスに共感できるかを問いなおす人が増えました。日本のように行間を読む、空気を読むことを求められる文化では難しさもありますが、少なくともグローバルビジネスにおいては、メンバーと上司の間で互いの価値観を論理的に説明すること、感情や心情も言葉にして伝える説明こともより大切になってきています。

 

 

想像を超えた人間の適応能力

 

コロナ禍を経験しての前向きな発見もありました。私たち人間は想像していた以上に適応能力が高い、ということです。

 

前代未聞の状況にも関わらず、日々の業務、ミーティング、研修、展示会まで、リアルが当たり前と思われていたことをオンラインでこなすスタイルを世界中が即座に取り入れました。それを実現できるだけの技術水準が幸運にもあったこと以上に、不可能を可能に変える人々の気概と適応能力の高さあってのことです。企業内では、上司が部下の隠れた能力に気づき、業務の権限移譲や適材適所が進んだという声も聞かれます。

 

外出禁止令下の生活の中で、家族の暮らしや能力に改めて気づくこともできました。英国でも女性が仕事と家事両方を担うことがいまだ多い中、子どもの自宅学習のサポートまで加わりこなしきれないと嘆く声が上がりました。しかしながら同時に、以前よりも家事や育児に積極的に関わるようになった男性も増えています。

 

世界的なパンデミックが終息しても、ワークライフバランスを重視する価値観は一層定着し、柔軟な働き方を取り入れる企業ほど優秀な人材を獲得する傾向がより進むでしょう。

 

人事考課制度については日本も成果主義にシフトし始めているようですが、今後は目に見えない個人の幸福度や達成感への配慮も求められるようになり、メンバー・管理職間の日常の円滑なコミュニケーションが鍵になるでしょう。

 

ロックダウンや外出自粛が緩和されるにつれ従来の手法に戻す企業もあるようですが、今後は保守的な企業と先進的な企業との間の格差がますます広がります。グローバル展開を視野に入れた企業は特に、全世界で画一的な方法をとるのではなく、国や地域により適切な方法を選択するのが望ましいでしょう。

 

 

”グローバルかつローカル”の流れ

 

英国のロックダウン期間中に力を発揮したのが、地域密着型のサポートグループや地元の小さな商店です。サポートグループは薬の搬送や買い物代行を行い、小規模店は大手スーパーで入手困難な製品も即座に入荷し地元地域での宅配サービスも行いました。幅広い商品を一度に購入できるという利便性から大手スーパーを利用していた人たちも、地域密着型で地元の要望に即座に対応できる小規模店の価値と重要性に気づいたのです。

 

グローバルな協力体制の重要性にも改めて焦点が当たりました。各国政府、科学者、企業は、互いの経験から学び、協力して最善策を模索してきましたが、これは決して一国や一企業では為し得なかったことです。世界は保護主義ではなく、協力、連携に基づいたグローバリズムを目指してほしい。関係性構築を大切にする日本に倣い、世界もまた他国や他社との関係性を重視してほしいと強く願っています。

 

グローバルビジネスでは、流通、サプライチェーン、人の移動が大きな影響を受けたことから、外国の工場を自国に戻したり、社員の海外派遣の代わりに現地企業のパートナーを探し始めたりする企業も出てきています。応急措置ではなく恒久的な措置として、より弾力性、柔軟性のある体制を構築しようとしているのです。

 

ここで重要なのは、企業が全てを自社でまかなう必要はないということです。ローカルに根付いた信頼できるパートナーと協働することで、より弾力的で効果的な組織運営が可能になるでしょう。つまり「グローバルかローカルか」の取捨選択ではなく「グローバルかつローカル」なのです。

 

 

早めに失敗し、修正しながら前に進む

 

各国政府は科学的、政治的、経済的等あらゆる側面からの分析を早急に行い、即座に決断を下さなければなりませんでした。あらゆる専門知識や技術を駆使して決断を急いでも、このウイルスはそれをはるかに凌ぐスピードで広がっていきます。どの国も、ウイルスの実態も掴めず、分析半ばの状態で次の決断を迫られました。それは非常に困難なものであり、いずれの決断も完璧なものではありませんでしたが、少なくとも決断を下すことで下さないよりも多くの命を救ったといえます。

 

ここから学んだのは「小さく失敗し、即座に修正し、前に進む」ことの重要性でした。

リスクを取ることは非常に難しい。確実と思えるまで決断を延ばしたくなるのが心情です。日本では一般的にできる限り失敗を避け、セカンドチャンスを得ることが容易でないカルチャーがあることから、余計にその傾向が強まりがちです。コロナ禍を経たグローバル社会では、失敗を恐れての意思決定の遅れは命取りになりかねません。

その時点で完璧ならずとも最善の決断を下し、実行し、結果を分析し、すぐに修正する。それは失敗を恐れ決定を遅らせることよりも成果への近道と痛感しました。

新型コロナへの対応をめぐり下された決断を批判する声にも私は違和感を覚えます。完璧な決断などありえず、批判よりも結果を分析し次につなげることが建設的で重要と感じています。

 

 

全てが平等な世界での、私たちの新たな決意

 

このパンデミックは人間の傲慢さに対する自然界からの警告であると同時に、「全てが平等」というメッセージととらえています。自然と人間、クライアントとサプライヤー、個人個人の関係性など、全てにおいて一方が他方を支配する主従関係ではなく、あらゆる人・ものが平等に横に繋がり、エゴを取り払い、違いを受容できた時、本当の意味での協力関係が構築でき、お互いを思いやる豊かな世の中になると信じています。

 

今回、世界はあまりにも大きな犠牲を払いました。多くの命が失われ、悲しみにうちひしがれる人が溢れています。心からのお悔やみとお見舞いを申し上げますとともに、この学びを決して無駄にしないと心に誓っています。

 

私たちはかつていた場所に戻ってはならず、また世界が変わるのを待つ必要もありません。

世の中をよりよい場所にするために、私たち自らが前向きな変化を起こす時が、今です。

 

私たちOBMは、グローバルビジネスの世界を舞台に、あらためて大きな決意とともにお客様との一歩を踏み出して参ります。

引き続き皆様のご用命、ならびにご支援・ご指導を賜りますよう、宜しくお願いいたします。

 

 

2020年7月17日

代表 江口ベイコン昌子