英国総選挙の結果がブレグジットと日英ビジネスに与える影響

06 January 2020

2019年12月に行われた英国総選挙の結果、保守党が過半数を獲得し、英国議会はブレグジット(英国のEU離脱)に向けた法案可決プロセスを開始しました。このコラムでは、総選挙の結果がブレグジットの方向性や日英ビジネスにどのような与える影響を与えるかを考察します。

 

なぜ総選挙が行われたのか?

 

2017年の総選挙では保守党は過半数を獲得することができませんでした。その結果、英国のブレグジットについて議会の承認を得られないまま、2016年6月の国民投票から3年半の月日が流れました。 

 

ブレグジットの最大の妨げとなったのはアイルランドとの国境問題に関する「バックストップ(安全策)」でした。アイルランドと北アイルランドの間に物理的な国境インフラを設けず、国境検査を行わないための対策です。しかし、代替的な管理体制に合意できずバックストップが発動すると、EUと英国の単一関税領域が発生し、英国がEUのルールに縛られ続けることになるとして、多くの保守党議員が反対しました。

 

ボリス・ジョンソン氏が保守党党首・英国首相となった後、新たな離脱協定案を提出しEUから合意を取り付けました。ジョンソン首相が合意した離脱協定案では、テレーザ・メイ前首相が合意した協定案から「バックストップ(安全策)」を削除し、新たな国境管理を設けました。北アイルランドは英国ではなくEUのルールに準拠することになり、北アイルランドとアイルランド間の税関検査や規制検査は行われません。代わりに、アイルランド島とグレートブリテン島の間のアイリッシュ海が境界線となり、物資が北アイルランドに輸入された段階で税関検査が行われるという設定になっています。

 

しかし、議会はこの協定案についても合意に至ることができず、ジョンソン首相は当初2019年10月31日だったブレグジットの期限の延期をEUに要請しなければなりませんでした。結果、3度目となる延期が認められ、2020年1月31日が新たな期限として定められました。

そして英国国会は政治的停滞を抜け出す為、2019年12月12日に総選挙を行うことで合意しました。

 

主要政党がマニフェストで示したブレグジット方針  

 

主要政党が総選挙に向けて発表したマニフェスト(政権公約)の中で、ブレグジットについて各党はどのような方針を示していたのでしょうか。

 

 

2019年総選挙の結果 

 

2019年総選挙は保守党の圧勝となりました。各党の獲得議席数は下記の通りです。

 

保守党・・・・・・・・・ 365議席 (2017年総選挙比 48議席増)

労働党・・・・・・・・・202議席  (同59議席減)

スコットランド国民党・・  48議席  (同13議席増)

自民党・・・・・・・・・  11議席  (同1議席減)

プライド・カムリ党・・・    4議席  (変動なし)

民主統一党・・・・・・・    8議席  (同2議席減)

「House of Commons Briefing Paper 19 December 2019: General Election 2019: results and analysis」を基に作成

 

この総選挙の結果、保守党の圧勝で政治的停滞状態を脱することになり、2020年1月31日のブレグジットがより現実味を帯びてきました。

しかしながら、スコットランドや北アイルランドにおいてナショナリズムの動きが強まっているのも気になります。スコットランドでは、スコットランド国民党がスコットランドの投票数の45%を獲得するなど躍進、北アイルランドでは、ナショナリスト(アイルランド帰属を主張)がユニオリスト(英国帰属を主張)を上回る結果となっています。

今後の英国の政治の舵取りに少なからず影響を与えると思われますので、今後の動向に注視すべきと考えます。

 

 

総選挙の結果、ブレグジットのゆくえは?

 

ジョンソン首相率いる保守党が単独過半数を獲得したことから、12月20日、英国議会下院は予想通り賛成多数でEU離脱協定法案を可決しました。この法案はジョンソン首相が10月にEUと合意した離脱協定案をベースにしたもので、移行期間を2021年以降に延長しない条項も含まれています。同法は2020年1月には施行され、1月31日のブレグジットに向けたプロセスが進行することになります。

 

 

2020年1月31日のブレグジットから2020年末日までの移行期間中は、英国はEU法規制下に置かれますが、EU議会への参加はできず、EUの政治的意思決定プロセスからも除外されます。

 

移行期間に入ると英国とEUは離脱条件交渉を開始できますが、英国がEUとの通商合意ありでのブレグジットを目指す場合は、2020年末までに交渉を完了させる必要があります。一方EU側は2020年3月1日までに英国以外のEU参加国で交渉内容に合意するとしており、英国EU間の交渉期間は実質10ヶ月間しかありません。

 

合意に向けた交渉期間が極めて短いことから英国商工会議所など産業界は「合意なし離脱」に終わるのではとの危機感を表明していますが、英国政府は合意可能としています。

 

日本企業の反応、対応 

 

2016年6月のブレグジット決定以来、英国に拠点を置く日本企業の多くは「現時点でできる限りの準備は完了した」状態のようです。全機能あるいは一部機能を他のEU国へ移管した企業も一部にみられたものの、多くは欧州統括本部を英国に残しています。中にはグローバル統括本部を新たに英国に移した企業もあります。

 

これら英国に拠点を置く日本企業にその理由を尋ねると、豊富な技能、人材、言語(英語が公用語である)、ビジネスのしやすさ(ビジネス慣習や規制)、そして日英の産業政策や協業分野の類似性等が挙げられました。

一方で、英国・EU間のサプライチェーンやEU国籍の人材の雇用に対する影響に強い懸念を示す企業も少なくなく、移行期間中の交渉のゆくえによっては新たな対応を迫られる可能性もあります。

 

ブレグジット問題を切り離したところでは英国のイノベーションや技術力の高さへの関心は依然として高く、日本企業から英国企業への投資(M&Aを含む)は継続しています。また欧州におけるスタートアップや小企業の資金調達という観点においても、首都ロンドンを中心に豊富な投資家や人材の集積地としての魅力を維持しています。

 

今後の日英貿易協定

 

2019年12月20日、英国政府は、英国からEU域外への輸出額は昨年の5倍近くに上り、その中でも対日本は7.6%の増加(2019年9月までの1年間と18年9月までの1年間を比較)という統計を発表しました。総選挙後、英国ではブレグジット後の各国との貿易協定に関する話題も増えました。その中でも日本は米国と並び重要国と位置付けられています。英国はEU加盟国として日欧経済連携協定の恩恵を受けていますが、ブレグジットの移行期間が終了する2020年末日には、この協定から脱退することになり、英国はそれまでに独自に日本との貿易協定に合意しなければなりません。

 

2019年12月21日に行われたジョンソン・安倍両首相による電話会談では、安全保障や防衛面での協力体制の強化と、日欧経済連携協定の内容をベースにした自由貿易協定の締結を目指すことで合意しています。

安倍首相は以前よりCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への英国の加盟を歓迎していますので、この点も両国間協議に含まれると思われます。

 

弊社では、今後もブレグジットの進捗と日英関係に与える影響について、引き続き注視して参ります。